英語圏の学術本出版過程に関する総括

主に日本においてこのブログをご覧になってる皆様、ゴールデンウィークはいかがお過ごしになっていらっしゃいますか?アメリカの大学で2学期制を採用している大学では、先週から今週までが学期末のピークで、どこでもバタバタしています。自分が在籍しているUCF(セントラルフロリダ大)においても昨日までに全ての成績付けを終える必要があり、どうにかそれを終えてこのブログを書いているところです。教務や教員の夏休みそのものについてそのうち書きたいと思うのですが、今日はこの一年費やして書いてきた英語圏の学術本出版過程についてのブログを総括したいと思います。一言で言えば、自分では予測・コントロールできない外部環境に対して、個人の裁量と人を頼るバランスを取って対処する能力が大事、ということに尽きるかと思います。

学術本を検討、出版する際に外部環境のことを考えることが不可避と述べてきました。博論などを改訂して最初の本を出版ことを主に念頭におけば、特殊な例を除いて数年(自分の場合2015−2025の10年)単位のコミットを必要とします。コロナ、ハリケーンや出版会へのサイバーテロなど予測できない事件だけではありません。長年のコミットを必要とする以上、大学で助教・講師として教務に就く就かないに関わらず、長期間の雇用の安定性が望ましいです。そのためには、自分のようにアカデミア或いは他の仕事に就くために、就活は避けられませんし、そうした仕事が得られる保証は何もない中、希望を持って改訂などをする必要があります。就活の過程やその他個人的な問題・状況については、本そのものの内容と関係しておらず、従って成功した人の視点であれば討論する必要のないこととして処理されますが、学術本出版過程の核心的な問題だと捉えています。

とは言うものの、個人で本の内容やその他の事項に関して何もできない、ということではありません。博論の改訂については、個人で再度俯瞰して見直し、資料を再解釈したり、再理論化することができます。ブック・プロポーザルについて各出版会の項目に沿って本を魅力的にアピールし、且つそれを書く能力を合わせ持つこと示さなければいけません。査読に対してあらゆる感情をコントロールしつつ、再考察・反論を行うのも個人の裁量のうちです。そして何よりも、これらを全てやり切るパッションと体力があらゆる瞬間において試されます。博士課程において博論を書く時もこうしたことを要求されましたが、それでもクラスメイトや先生が側にいて程度が軽減されました。しかしながら、自分やアメリカなど殆どの大学で教務についている人間は、シカゴ大学のような研究機関で教えることはなく、東アジア史を教えてる人間が一人か二人みたいな大学にいることが普通です。そのような環境下いた自分の立場を振り返ると、個人の裁量で克服する場面に直面しつつも耐え切れたのではないか、と考えています。

個人の裁量で全てが解決するかというとそんなことはなく、その点については反省点であり、どのように「人を使う」かが重要であると思っています。それは英語の能力の問題で誰かにEditingが頼むというだけの次元の話ではなく、プロポーザルを書いてる段階から実際に本を査読に出している過程において、積極的に同分野のシニアの学者へ草稿を読んでもらって意見を聞いたり、宣伝したりすることです。その機会は学会等でも可能で、自分もそれをしましたが、それだけでは足りないと考えています。また、同年代の学者を始めとして、本の出版の助成やどのように査読意見に反応したりなどの情報を収集したり提供したりすることも必要ですし、出版会へのコミュニケーションの段階においても意見を出して助けてもらうことだったりします。これらの点については、上記のような外部的環境要因が否定的に働いたとはいえ、言い訳できない事柄であり、今の状況にも影響しているかなと考えています。2005年からアメリカに来てて、「人を使ってなんぼ」みたいな社会であることを理解しながらも、日本での「人に迷惑をかけない」家庭・学校教育をまだ克服できない感じです(笑)。

以上のような学術本出版に向けた三要素について、皆様の参考になったのでしょうか?特に日本の読者の皆様は、問題はむしろ逆で「いつも誰かと関わらなければいけないなかで(科研費共同研究など)、如何にして個人の抽象的・具体的空間を確保して、本の出版に漕ぎ着けるか」という感じでしょうか?そもそも、国際化の掛け声があるとはいえ、置かれている大学などの研究環境や評価基準の問題などで自分の反省や提案などが直接的に適応されないことも多いと思います。それでも、過度に推奨された成功例や理論的な話(どうやってプロポーザルを書くか?など)だけではなく、自分一個人が出版に向けたそれぞれの瞬間においてどのように対応して行ったかについては、生の情報であり少しでも参考になれば良いなと思っています。

Previous
Previous

アメリカの人文系大学院(修士・博士)への出願に関するブログシリーズ: (1) 教授への事前コンタクト(修士編)

Next
Next

やるせなさ:本著出版までの直近の数ヶ月間