アメリカの人文系大学院(修士・博士)への出願に関するブログシリーズ: (1) 教授への事前コンタクト(修士編)
先日、英語圏大学出版局から学術本を出版することに関するブログのシリーズを終えたのですが、わずかでも読んでいただけたでしょうか?本日より、アメリカの人文系大学院への出願に関する体験を話しつつ、考察したいと思います。ブログの写真にあるように、ちょうど一人の学生が歴史学科の修士学科に出願するので推薦文を書いているのですが、彼と会話していた際に入学許可された場合に指導教授となる人に事前に連絡をしてはいけない、という誤解をしていたらしいことがわかりました。また、先日のAASで日本で修士・博士課程(の途中)にいた人が後にアメリカの博士課程(地域研究)に出願する際(わずか6−7年前のこと)、全く参考するものがなく困ったとのことを聞きました。こうした誤解や情報不足が2010年代後半から2025年においても存在していることは驚きであったと共に、このブログシリーズを書く動機付けにもなりました。今後、自分の体験(2000年代中頃)を中心にアメリカ修士・博士課程への出願について書こうと思いますが、まずは今回両方の出願に共通してるテーマ「指導教授若しくは関心のある教授へのコンタクト」(修士編)について書きたいと思います。
結論から言うと、申請以前に書いて損することはないと思います。なぜなら、申請者にとっては自己紹介をする良い訓練になると共に、申請される側や教授にとっても申請者がどのような人で、どのような研究に関心があるかを知る機会になるからです。今後話しますが、志願書(Statement of Purpose)で突然名指しされるよりずっと良いです。上記の学生のように申請以前にメールを書いてコントタクトを取ることが、選考課程に不当に影響力を行使していると思われるかもしれませんが、自分が知る限り直接それによって否定的に働いたり、不快に思われるようなことはないと思います。また、私の読者は日本の方が多いと思いますが、日本から直接メールを書くことに英語を含めて抵抗感があると思うこともあるかと思います。確かに返事があることは保証できませんし、自分も博士課程出願前にメールを書いた際に全ての教授から返事があったわけでもありませんでした。教授は日頃忙しく、特に知らない学生からのメールに全て返信するのは難しいと思われます。それでも、お互いを知ることができる可能性がある点で、労を厭わずコンタクトすることをお勧めします。ただ、一つ言わせて頂きたいことは、AIを使ってメールの文面を作り、杓子定規のような文面だけは避けてください。なぜなら、そもそも学術的な誠実性やライティングの能力を疑わせることになるとともに、単純に返事する気が失せるからです。なので、下記にあるような感じで構成し、自分の言葉で(たとえ拙い英語文面であっても)書いてください。
現在日本又は他の地域の学生で、アメリカの修士課程に出願を考えている人へ。文面は学部生の時の訓練や経験によるかと思います。上記の学生はコースワークもしっかりし、学外でのパブリックヒストリーの訓練や経験もあり、他大学で歴史学科の学部生のための補助金付きのインターンシップと歴史学のための訓練を経て、研究のトピックや問題意識が既にあります。そのような学生は次回説明するような博士課程出願の際のメールの文面と変わらない感じで良いと思います。
問題は私と同じように学部生の時は出願する修士学科と関係のない学部・学科(法律学科 vs. 東アジア研究科)に所属していて、そもそも上記の学生のような訓練も経験もない場合で(且つ、自分は授業すらあまり出ていませんでした)、それでもアメリカの文系大学院に留学したい場合かと思われます。この際、大枠でやりたいこと(自分の場合は東アジア・日本研究)はなんとなくわかっていても、そもそもどんなディシプリン(文学・歴史・人類学などなど)かもわからず(当時自分はその違いさえ知りませんでした)、したがってどの教授にコンタクトしていいかわからないと思います。特に大学の名前だけで出願先を考え・選んだ場合など、このようなケースに当てはまるかと思います。なので、例えば East Asian Studies, the United Statesみたいな感じでググった上で各種大学院・教授などを見てみてください。その際、英語が億劫だとは思いますが、それも訓練の一過程と考えてください。2004年当時の自分はなんとなく「どうして大阪のお金持ち、なんなら日本人はケチなのだろうか?それを外から見てみたい」というようなことを考えてました(金融機関勤務の経験から)。そこから、少しでも自分の関心と近い教授・プログラム(修士の出願先の問題は授業料減免等も絡み、研究関心だけでは決められませんが)を探してメールしてみてください。
その際、メールの文面はより簡素で抽象的にならざるを得ないと思います、というのも上記学生のように専門的・具体的に語れることが少ないからです。まず、Dear Dr. X or Professor X. の文面から始めて、1−2行で自己紹介してください。まだ大学生であれば大学と専攻・私のように卒業後仕事をしていながら応募の場合は、大学・専攻・仕事先とその内容で十分だと思います。次の段落に移り、上記に私が書いたようにどういうことに関心があるか、それがどのような過程で発生したかを述べてください。この段落の重点は、独立した思考ができ、知的好奇心があるか、ということに尽きると思います。そして、次の段落でメールの宛先たる教授の研究内容と自分の関心がいかに近く、その教授や関連する教授の授業を取り、最終的に修士論文などを書きたいことを説明してください。この段落の重点は、事前に相手先を調べたことを示す「宿題」をするとともに、動機付けなどを示すことにあると思います。そして、最後に読んでもらったことを感謝する文面を書いて、メールを締め括ってください。
このようなことは志願書(Statement of Purpose)でもう少し詳しく書くことになると思いますが、是非メールにて書いてみてください。返事がもらえるかどうかは正直わかりませんが、それでも「メールありがとう!出願を楽しみにしておく」ぐらいな表面的に見える返事であっても、印象に残る可能性はありますし、志願する側からも将来修士論文を書くかもしれない相手の人柄などを知ることもできます。そして何より、自己の思考を整理できますので、こうした第一歩を出願以前にしてみてくださいね!次回はコンタクト(博士課程編)について書きたいと思います。